ERP(Enterprise Resource Planning)とは企業の経営資源を個々の業務レベルではなく、企業全体において有効活用の観点から統合的に管理し、経営の効率化を図るための手法・概念のことである。本講演では実際にERPを導入した経験を持つユーザー企業の立場から見るERP ・EA ・SOAについてご講演いただいた。
講演の概要はまずシスメックスのERP導入の歴史について触れ、次にその導入後の経過、そして最後にまとめとして、EAの効果とERPについてというものであった。以下各項目の詳細について述べられた。そのポイントは次のようなものであるとのことであった。
まずERP導入の歴史についてお話いただいた。シスメックスでは90年代半ば、医療機器の競争激化、Y2Kといった外部環境、加えて上場によるシステム強化の必要性、取引形態の多様化などの内部環境、さらには情報システム環境といった様々な要因により、企業体質を改善する必要性に迫られていた。すなわち低コスト高スピード経営への転換である。
以上のような背景により、シスメックスはSAP社の『R/3』を用いたERPによる会社基幹系情報の一元化を選択した。シスメックスにおけるERP導入は大きく分けると96〜00年の初期導入フェイズ、01年から行われている関係会社展開フェイズに分ける事ができる。
前者の初期導入フェイズでは導入対象はシスメックス株式会社であり、導入効果としては柔軟性、信頼性の増加及びY2Kへの対応といったものが挙げられる。しかしERPを導入するだけでも大きな負担だったせいもあってか、徹底した業務革新が出来なかった、全般的に情報基盤の置き換えに留まったといった反省点もあった。
以上の様な経験を踏まえ、後者の関係会社展開フェイズでは既に導入経験を持つシスメックス側が関連会社へのR/3の導入を全面的にバックアップ。その結果、決算の短縮、業務コストの削減、関連企業とのシェアード体制、統合業務の早期確立といった効果を得ることが出来た。
次にその後の導入経過ということで、現在のシステム構成についてご説明いただいた。シスメックスのシステム構成は先ほど述べた様にR/3を主体にしている。しかし、R/3で全てをカバーできるわけではない。したがってシスメックスではR/3でカバーできない人事情報や試薬関係のシステムなどの部分は別会社のシステムを用いる事でカバーしている。
以上の様な現状から、将来的にはR/3自体はシステムのバックボーンとしては存在するが、ユーザーの側から見えなくなるだろうと予測される。そしてそのような状態がSOA(Service Oriented Architecture)の一つの理想的な姿と言えるのではないのだろうかと考えられる。
最後にEA(Enterprise Architecture)とERPの関係性についてご説明いただいた。EAは一般的にBA(Business Architecture),DA(Data Architecture),AA(Application Architecture),TA(Technology Architecture)からなる4層モデルで表現される。
ERPはその内のDAからTAの部分をカバーする。しかし、ERP内部はEAに表現する事は出来ないし、また表現する必要も無い。それではEAの効果とは一体何なのか。
それは企業の経営戦略とIT戦略とを橋渡しする為の可視化も出るとしては非常に有用であるということだ。EAは経営者とIT部門との意思疎通を容易にし、事業とIT投資の目的とを繋げる事が可能にする効果があるのではないかと考える事ができるだろう。しかし、最初から詳細で大掛かりなものを作る事は困難であると考えられる。
以上までをまとめると、ERPだけで企業の全ての情報システムをカバーできるわけではない。しかしERPは企業の情報システムの基幹としては非常に有用なものである。したがってカバーしきれない部分についてはERPをバックボーンとして別のシステムで補う必要性がある。この手法でシステム設計を行っていく事で、理想的なSOAを達成できる可能性は大きい。
また、EAは経営者とIT戦略との意思疎通の為のアーキテクチャとして非常に有用なものである。したがって、EAを用いる事で、経営戦略とIT戦略とを一致させる事が容易になるのではないかと考えられる。
関連リンク
・株式会社シスメックス:http://www.sysmex.co.jp/
・用語関連(IT用語辞典e-Words)
EA :http://e-words.jp/w/EA.html
SOA :http://e-words.jp/w/SOA.html
ERP :http://e-words.jp/w/ERP.html
SAP R/3 :http://e-words.jp/w/SAP20R2F3.html