経営情報学会2003年度秋季全国発表大会

統一テーマ

 

IT戦略と地域ケイパビリティ

−地域における情報創造の条件を求めて−

趣旨

 

 情報技術(Information Technology)が、地域振興のイネブラーとして期待を集めてきたことは周知の通りです。日本のさまざまな地域でITを活用した地域振興が試みられてきました。

 地域のさまざまな産業分野におけるユーザ企業は市場における競争上の優位性を獲得するためにITを活用しようとしてきました。こうしたユーザ企業の情報化を支えるための情報処理サービス会社も数多く誕生しました。あるいは、ここ数年、インターネットの普及に伴って、いわゆるドットコム企業が地域にも相次いで誕生し、いわゆるeビジネスが展開されてきました。さらには、産業界のみならず、地域社会においてもITを街づくりやコミュニケーションに利用するといったような試みも数多くなされてきました。

一方、これらの動きを支援するための国、地方公共団体によるさまざまな制度的支援や施策が打ち出されてきました。いわゆる“e-Japan構想”はその頂点をなすものでした。あるいはこうした産業社会の情報化を担う人材を育成するための大学や学部あるいは学科、あるいは専門学校などもそれぞれの地域に数多く設置されてきました。

しかし、いま、そうしたITを活用した地域振興の可能性についてさまざまな疑念がいろいろな著作やメディアを通じて提起されるようになってきています。“ITバブルの崩壊”といったジャーナリスティックな表現が使われることもあります。このようなジャーナリスティックな言種はともかくとして、いま、地域振興のイネブラーとしてのITの可能性について冷静な評価を試みる時期に差し掛かっていることは確かと思われます。

最近、ITを活用した地域振興が成功するためには、ITを受容する側の地域自体の制度的用件、人的資源、マクロ経済環境あるいは地域風土といったその地域のさまざまな資源の在り方こそが大切であるということに少しずつ気がつかれはじめているように思われます。換言すると、地域が持っている本来的な能力、言うなれば“地域ケイパビリティ”こそが、IT戦略の成否を決定する主要要因ではないかと思われます。

 本大会では、地域におけるIT活用のこれまでのさまざまな実践事例やそれらを教導する諸理論を検証しながら、地域側のケイパビリティという点に焦点を当ててITがその能力を発揮できるための条件を探り、あわせて今後の経営情報学の新たな学問上の戦略的ポジショニングについて活発に討議をしたいと思います。

文責:札幌大学 八鍬幸信